大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和51年(行ツ)56号 判決

東京都世田谷区中町二丁目二七番地一五号

上告人

矢田樟次

右訴訟代理人弁護士

中条政好

東京都千代田区大手町一丁目三番二号

被上告人

東京国税局長

磯辺律男

右指定代理人

藤井光二

右当事者間の東京高等裁判所昭和四七年(行コ)第一七号差押処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五一年二月一七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人中条政好の上告理由について

所論の差押処分にこれを取り消すべき違法はないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 本林譲 裁判官 岡原昌男 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 栗本一夫)

(昭和五一年(行ツ)第五六号 上告人 矢田樟次)

上告代理人中条政好の上告理由

事実

一、上告人矢田樟次は取引先の株式会社教育同人社(以下単に同人社)へ昭和二七年八月常務取締役として入社し、昭和三〇年六月三〇日退社した。この退社に当り上告人は税抜きの約束で同人社から現金で金一千万円の退職金を支給(六月二三日金三百万円、六月二四日金三百万円、六月二七日四百万円)された。

二、この退職金支払いに関し、同人社代表取締役森松雄は源泉徴収義務者として旧所得税法第三八条の二第二項の規定によりその支払いの際、その支払うべき一千万円に対し百分の二十の税率を適用して算出した税額の所得税二百万円を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月十日即ち、昭和三〇年七月十日までに所轄豊島税務署へ納付すべき処、森松雄は当該退職金分の源泉徴収税として金五〇万円しか納付してなかつた。

三、処で昭和三五年九月中、同人社が別件法人税につき豊島税務署の職員鈴木某、同元木某の調査をうけた際、前記脱税の事実が発覚し、同年九月三〇日付で上告人((株)同人社ではなく)が更正処分を受けた。

四、通知書(甲三)によると、更正年度は昭和三三年分所得税の更正通知書となつており、更正の理由は(株)教育同人社から昭和三三年七月三一日、八、八三六、二五八円の債権放棄による贈与がなされた、となつている。

趣旨(更正理由)は、

上告人が同人社に在職中残した未済の負債八、八三六、二五八円を同人社は昭和三三年七月三一日放棄し、この債権放棄により上告人は同額の免除益を得た。この免除益は税法上、旧所得税法第九条第一項第九号の一時所得に該当する。これが申告漏れになつている。よつて之を更正したということになるのである。

五、右更正処分に対し上告人は不服申立前置の規定により再調査請求及び審査請求を経たが、この審査請求が申立期間後になされた不適法の審査請求だとして却下の裁決をうけ、更に訴訟を提起して争つたが、これも審査による裁決を経ていないことになるという理由で訴訟も実体的審理を受けずに却下されてしまつた。

六、そこで被上告人は、昭和四一年十一月二五日前三項記載の更正決定により上告人所有の後記目録記載の土地を差押えた。

七、この被上告人のした滞納処分による差押処分及び更正処分の違法性を論じ、処分の無効を主張したが一審、二審も又敗訴となり、ここに上告するに至つたものである。

八、上告人の更正決定に対する主張は、更正決定通知書記載の同人社が放棄したという八、八三六、二五八円という債権は捏造した虚為の仮装債権である。

これを同人社が放棄したからといつて無い債権が放棄できる筈のものではなく、又仮に放棄の意志表示が何等かの方法によつてなされたとしても、それにより上告人が免除益を取得するに至らないことは当然の事理であり更正決定は無効である。

2 又かかる更正方法を当事者が故意に法廷で攻撃防禦方法として用い、裁判所を欺いて判決を得た場合、この判決も又違法であり無効である、と主張するものである。

3 被上告人が当該更正処分による八、八三六、二五八円を貸金、売掛代金の未済金だと主張するのは、退職所得一千万円に賦課さるべき源泉所得税の一、五八三、四一〇円(五〇万円の控除残)の徴収権が消滅時効の完成により徴収できなくなつたのと、そうしないと被上告人が行つた本件差押処分が旧所得税法第四三条第一項の「受給者が納付すべき所得税を納付しなかつたときは国税徴収の例によりこれを支給者から徴収する」となつている規定に抵触する。そこでこの抵触を避けるためである。しかしこれらの主張は何れも斥けられている。

上告理由

第一点 口頭弁論公開の規定に違背している点

一、口頭弁論公開の原則は憲法第八二条対審の規定並に民事訴訟法第一四一条責問権の規定により、同法第三九五条第一項第五号口頭弁論公開の規定により裁判の公正が厳重に保障されている。

1 上告人の当該更正所得金額八、八三六、二五八円を否認しこれを実在しない捏造した虚偽の仮装債権であり、従つて放棄もできないし、又放棄の意志表示をしたからといつてそれにより上告人が所得となるべき免除益を取得するわけもない、と主張し、立証にも終始一貫してつとめたが、裁判所は何れも上告人のこの主張或は申立について之を採用せず、又判断もせず謂所片手落の裁判をしてきた。

第二点 法令違背の点

当該昭和三三年分所得税更正決定は裁量権の濫用に当る違法処分であつて、この点からも取消しを免れない。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例